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大気汚染防止法とは

ここでは、難解とされる大気汚染防止法について、わかりやすく解説しています。 大気汚染は、人の健康を直接害するだけではなく、温暖化や気候変動など、地球規模での問題の主要な原因の一つ。日本はもとより世界中において、大気汚染問題は早急かつ継続的に取り組むべき大きな課題です。

大気汚染防止法の概要

人間が空気を吸って生きている以上、人間の作為によって汚染された空気を吸い続ければ、やがて体に様々な健康被害が発生します。それらの健康被害を未然に防止するべく、大気汚染が起こらないよう様々な規制を定めた法律が、大気汚染防止法です。

具体的には、工場や事業所などから排出・飛散される大気汚染物質について、施設の種類や規模、物質の種類などを基準に排出基準を設定。汚染物質を排出する業者に対して基準を遵守させることで、大気汚染から国民の健康を守ることが、大気汚染防止法の目的となります。

大気汚染防止法の歴史的背景

現在でこそ、日本は他国の大気汚染問題を指摘し改善を促す立場となりましたが、高度経済成長期においては(厳密に言えば現在においても)、日本は深刻な大気汚染問題を抱えていた国の一つでした。1961年の四日市喘息や190年の光化学オキシダント、1978年の自動車排ガス訴訟、1997年のアスベスト問題など、過去に日本で表面化した大気汚染問題は数々あります。

もちろん当時の日本も、大気汚染問題を放置していたわけではありません。国民の健康を害する大気汚染に対し環境基本法を設け、深刻な大気汚染問題に対して様々な取り組みを行っていた経緯があります。 その取り組みの一つが「環境基準」の設定です。この「環境基準」を達成するため、具体的な指針として示されたのが、昭和43年に制定された大気汚染防止法でした。

現在、日本ではこの大気汚染防止法の目的達成のため、国が率先して産業界に細かい義務を課しています。産業の発展によって経済が活性化されることは良いことですが、国民の健康を害してまで産業の発展を優先することは本末転倒です。 産業界には、大気汚染防止法を守って生産活動を行うことが厳しく求められています。

大気汚染防止法の規制対象となる物質

大気汚染防止法で規制対象となっている物質は以下の6種類。それぞれの概要について見てみましょう。

1.有害大気汚染物質

有害大気汚染物質とは、たとえ低濃度であっても長期的に人体に入り込んだ場合、人の健康を害する恐れのある物質の総称です。大気汚染防止法では、後述する「ばい煙」と「特定粉じん(アスベスト)」を除いた全248種類の物質を、有害大気汚染物質として指定しています。

なお、これら248種類の有害大気汚染物質の中でも、ある程度健康リスクが高いとされる23種類を優先取組物質として、さらに健康リスクが高いとされる3種類を指定物質としています。

2.ばい煙

ばい煙とは、石油などの燃料を燃やした際に発生する硫化硫黄物、ばいじん、および有害物質を含む煙などの総称です。もともと「ばい煙規制法」という法律による規制がありましたが、同法が大気汚染防止法に引き継がれた後、さらに規制内容が厳格化されました。

3.粉じん

粉じんとは、物の粉砕などによって空気中に浮遊する微細な粒子状の物質の総称です。かつてマスコミでも話題となったアスベスト(石綿)を「特定粉じん」、それ以外の粉じんを「一般粉じん」と定められ、それぞれにおいて細かい管理基準が設けられています。

4.揮発性有機化合物

揮発性有機化合物とは、揮発性の高い有機化合物の総称です。もともとは液体であるものの、その高い揮発性により大気中では気体として存在し、人体に対して有害な作用を及ぼす種類を、揮発性有機化合物として規制対象としています。具体的には、トルエンや酢酸エチル、キシレンなどです。

VOC(揮発性有機化合物)の
特徴や処理対策とは

5.水銀等

大気汚染防止法の一部改正に伴い、水銀も規制物質として追加されました。水銀を排出する施設を新設する場合、または水銀を排出する既存施設の構造を変更する場合には、都道府県への許可が必要となります。

6.自動車排出ガス

自動車や原動機付自転車から排出されるガスも、大気汚染防止法の規制対象となっています。メーカーには、一酸化炭素や窒素酸化物、単価水素、鉛化合物、粒子場物質などの規制が課されています。

大気汚染防止法における排出基準

工場などから排出される大気汚染物質は、物質の種類や施設の種類・規模に応じ、排出基準等が定められています。ここでは、それら排出基準について、物質ごとの概要を見てみましょう。

ばい煙

次の4つの基準により、ばい煙規制が設けられています。

特定粉じん(石綿)

工場や事業所から排出される特定粉じん(石綿)については、工場や事業所の敷地の境界線における大気中の特定粉じん(石綿)の許容限度を、環境省令で定めています。当該境界線における大気中の特定粉じんの濃度が基準以上だった場合、都道府県知事は工場・事業者に対して、業務改善や施設の一時停止を命じることができます。

また、特定粉じん(石綿)の排出作業などにかかる基準についても、作業の種類などに応じて細かい基準が環境省令で定められています。

揮発性有機化合物

揮発性有機化合物の排出施設から大気へ排出される物質について、排出物質に含まれる揮発性有機化合物の量(揮発性有機化合物濃度)に応じ、施設の種類や規模ごとの許容限度を環境省令で細かく定めています。

水銀等

水銀等の排出においては、大気中に排出される水銀等の削減技術や経済性を勘案のうえ、各施設において可能な限り排出を削減できるよう、施設の種類・規模ごとに許容限度が環境省令で定められています。

大気汚染防止法における事業者の義務

大気汚染防止法の対象事業者は、排出規制等に関して、以下のような義務を果たさなけれななりません。

施設の設置の届出(大防法第六条)

ばい煙を大気中に排出する事業者は、施設の設置に伴い、環境省令の定めに従って以下の事項を都道府県知事に届け出る必要があります。

  1. 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては、その代表者の氏名
  2. 工場又は事業場の名称及び所在地
  3. ばい煙発生施設の種類
  4. ばい煙発生施設の構造
  5. ばい煙発生施設の使用の方法
  6. ばい煙の処理の方法

排出の制限(大防法十三条)

ばい煙を大気中に排出する施設において、ばい煙量・ばい煙濃度が当該施設の排出基準に適合しない場合、ばい煙を排出することが禁じられます。

排出物質の測定及び記録
(大防法十六条、十七条の十二、十八条の十二、十八条の三十五)

ばい煙、揮発性有機化合物、特定粉じん(石綿)、水銀を大気中に排出する施設では、環境省令の定めるところにより、それらの排出量・排出濃度等を測定のうえ、その結果を記録・保存しておかなければなりません。

事故時の措置・届出(大防法十七条)

ばい煙発生施設において故障や破損などの事故が発生し、ばい煙や特定物質が大気中に大量に排出された場合、直ちに当該事故の応急措置を講じるとともに、その事故の速やかな復旧を図らなければなりません。 また、原則として、直ちに当該事故の状況を都道府県知事に報告しなければなりません。

公害防止管理者の設置
(「特定工場における公害防止組織の整備に関する法律」)

公害を発生させる恐れのある「特定工場」を運営する場合、主務省令で定めるところにより「公害防止管理者」を選任しなければなりません。大気汚染に関連する「特定工場」とは、ばい煙や特定粉じん、一般粉じん、ダイオキシンなどを大気中に排出する施設となります。 なお、ばい煙の排出施設については、政令で定めるばい煙発生施設又は汚水等排出施設の区分に応じ、それぞれで公害防止管理者を選任する必要があります。

参照元:「大気汚染防止法」
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=343AC0000000097_20210401_502AC0000000039#:~:text=%E7%AC%AC%E5%8D%81%E5%85%AD%E6%9D%A1%20%E3%81%B0%E3%81%84%E7%85%99,%E4%BF%9D%E5%AD%98%E3%81%97%E3%81%AA%E3%81%91%E3%82%8C%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%80%82)
参照元:「特定工場における公害防止組織の整備に関する法律」
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=346AC0000000107)

大気汚染防止法における罰則

大気汚染防止法に違反したことが判明した場合、違反の内容により次のような罰則が課せられます。「大気汚染防止法・第六章・罰則(第三十三条―第三十七条)」から、罰則の内容のみを引用します。

これら罰則とは別に、「改善命令」や「計画変更命令」、「基準・作業基準適合命令」などの行政命令を通じ、事業の一時停止などが命じられることがあります。

まとめ

近年、隣国におけるPM2.5などの大気汚染問題がニュース等で取沙汰されることがありますが、大気汚染は隣国だけではなく、大なり小なり多くの国で抱えている問題です。もちろん日本も例外ではありません。

世界が足並みをそろえ、一斉に同じ大気汚染対策に踏み切ることが難しい以上、まずは私たち日本人が、足元での対策の実行を進めていくことが唯一のできることです。 ことプラントを持つ事業者においては、大気汚染防止法の趣旨をよく理解のうえ、法の定めを厳格に遵守していかなければなりません。