塗装工程で排出されるガスの適切な処理については、工程改善や塗料の変更で削減することもできますが、可能な限りVOC処理装置を導入することが望ましいです。ここでは、塗装施設における排ガスの特徴や具体的な処理方法について紹介します。
塗装工程から排出されるガスには「悪臭物質」「VOC(揮発性有機化合物)」が含まれます。これらの処理については「悪臭防止法」「大気汚染防止法」の他、各自治体の条例でも定められており、適切な処理を行うことが必須とされています。
VOC(揮発性有機化合物)とは、揮発性を有し、大気中で気体となる有機化合物の総称です。VOCに該当する物質は100近く存在しており、塗料や印刷の分野においては「トルエン」「キシレン」「酢酸エチル」が挙げられます。VOCは大気中に放たれることによって光化学反応を起こし、光化学スモックを引き起こすため、環境保全の観点から注意すべき物質とされています。
VOCは「シックハウス症候群」「化学物質過敏症」などの健康被害を引き起こします。その症状は多岐に渡り「目の違和感」「鼻水」「のどの乾燥」「吐き気」「頭痛」「湿疹」など様々です。近年は住環境における木材や建材の防腐・防虫を目的とした化学物質の使用機会が多くなり、住宅の高気密化も進んでいることから、室内にいながらも化学物質による不調を訴える人が増えている背景があります。
VOCの発生源は、塗料や工業用溶剤が大半であり、そのほとんどが工場などの固定発生源
となっています。自動車や船舶などの移動発生源による要因もありますが、塗料を扱う現場においてのVOC対策は必須といえます。
排ガス処理は、除害すべき物質や対応方法によって、適した装置が変わってきます。そんな時に会社や排ガス処理装置をどう選べばいいのか、具体例と共に解説します。
塗料施設における排ガス処理には、排ガス処理装置を導入するのが一般的です。排ガスを処理装置に経由させることで、装置ごとの処理方法により「吸着」「洗浄」「中和」等の工程を辿り、大気中に放出できるレベルまで無害化することが可能となります。
塗料施設における排ガス処理方法には「直接燃焼法」「触媒燃焼法」「蓄熱式燃焼法」「活性炭吸着法」「低温凝縮法」などが挙げられます。各処理方法の選定については、各事業所の面積や作業環境、メンテナンス能力、経営状況等により大きく変わるため、単に機器を比較するのは困難です。
※平成7年度に発行された「炭化水素類の排出低減対策」にもとづいて解説しています。
そもそも排ガス処理装置の選定や導入に際しては、対象となる事業所において発生・排出されている有害ガスの種類や内容、排出量、さらに法定排出基準などを全体的に把握しなければなりません。
どのような成分や状態の排ガスを処理したいのか、またどの程度まで排ガス効率を高めたいのかなど、処理対象と処理目標を明確化することも必要です。また、単に排ガスの排出削減を目指すのか、それを再び回収して利活用するかといった流れを検討することも重要です。
なお、排ガス処理の目標には排出口濃度や処理効率などを設定します。
すでにボイラなどの燃焼炉などが設置されているのであれば、それらを活用した排ガス処理装置や補助システムを検討します。
排ガス処理装置には上述したように「直接燃焼法」や「触媒燃焼法」など複数の方法があり、それぞれのシステムの内容や適性を理解した上で、目的となる条件に合わせて排ガス処理装置のプランニングを進めなければなりません。
どのような排ガス処理装置を導入すべきかについては、選定条件を検討して処理方法の適正化を目指すことで見えてきます。
どのような理由や経緯で排ガスが発生しているのか、排ガスの発生要因と発生工程を把握しなければなりません。一般論として、金属塗装などの塗装施設においては焼付け炉など高濃度の排ガス発生源に対応できるシステムを考案します。また、塗装ブースや塗装作業室のように低濃度の排ガスが想定される施設において、適切な排ガス処理装置を検討しなければなりません。
排ガスについて成分や状態など詳細情報を分析します。例えば排ガスの組成を確認することで、各成分の沸点や爆発限界、吸収剤を活用した場合の吸着量などを検証することが可能です。また、排ガス濃度についても平均濃度と下限・上限を調査して、必要な排ガス処理装置の能力を検討します。
排ガスの風量も重要です。ガスの風量が一定であるか変動するか、さらに各ポイントにおけるガスの範囲や温度についても確認しておきましょう。
その他、排ガスにダストが含まれる場合、ダスト量を把握しておくことで初めて適切な集塵機などをプランニングすることが可能です。
必要とされる排ガス処理装置の能力や条件をまとめた上で、必要とすべきユーティリティの規模や種類を検討する段階に入ります。
ユーティリティとしては以下のようなものが挙げられます。
排ガス処理装置の規模は、設置可能なスペースと条件をすり合わせて考案します。また、設置スペースは面積だけでなく、どのような場所を利用するのか、周辺環境への影響はどの程度になるか、地域や自治体の法規制といった各種条件も含めて総合的に考えることが不可欠です。
排ガス処理装置の導入や設置には当然ながらコストが発生します。設置コストは排ガス処理装置のイニシャルコストであり、どの程度の規模や能力を備えるのか、予算と必要な条件などを比較検討しながらコストパフォーマンスの向上を目指してください。
排ガス処理装置のコストについては、設置にかかるコストだけでなく、その後の安定稼働に必要なランニングコストも重要です。ランニングコストを事前に試算した上でキャッシュフローやコストパフォーマンスの検証を行います。
どのような排ガス処理装置システムを導入するのか、目的の排ガスや処理目標によって異なるため注意しなければなりません。条件の適正化が行われない場合、経済的かつ効果的な排ガス処理の実現は困難です。
上記の各条件をそれぞれまとめた上で、排ガス処理装置メーカーへ相談します。検討の過程において条件的に厳しいポイントが出てきた場合、計画を続行するのでなく、一度立ち止まって各条件の再検討などを行うことも大切です。
VOC処理装置も規模によってさまざまです。例えば小型VOC処理装置であれば、想定される作業規模は「処理風量9 m³/min以下」「塗装ブース1台が167 m³/min程度」となり、塗装分野においては使用用途がかなり限定されます。この規模の装置価格帯はおおよそ100万円~300万円ですが、中には600万円以上する装置も存在します。600万円を超えてくる装置は、主に印刷分野で利用されており、処理方法には「触媒燃焼法」が採用されています。
一般的に印刷分野の排ガス排気量は塗装分野より小さいため、装置も小型である傾向があります。塗装分野における排ガス対策は塗料や工程の改善により削減することができますが、同時にVOC処理装置も併用することでより確実なVOC削減効果を実現できます。
塗装工場で必要とする排ガス処理装置の規模は比較的中規模となり「風量10,000 m³/h以上」が必要といわれています。機器選定については、メーカーに発注までに以下の項目の検討が必要です。処理方法だけでなく、アフターフォローも含めた総合的な検討を重ねましょう。
塗装乾燥炉から排出されるガスは、燃焼方式だけでは処理しきれず、漏れ出る可能性があります。一次処理しきれなかった排ガスは場内に充満し、作業環境の悪化につながるほか、近隣住民の苦情につながるので、事前に適切な処理体制を講じてきましょう。これら排ガスの適切な処理体制が整っていないと、場合によっては役所からの改善要請指導対象となります。
大規模な塗装工場では、塗装現場と乾燥炉から発生する「VOC」と「悪臭」を同じ処理装置で分解処理しています。しかし実際は塗装現場からの排気風量のほうが大きいため、装置の設置コストが高額になるケースがあり、容易に導入ができないという問題があります。
住宅に隣接する工場では、悪臭に対する近隣住民からの苦情が真っ先の課題となることが多く「まず脱臭できる機器を」というニーズが強くあります。