工場や自動車などからの排ガス対策として、法令での規制に加え、様々なタイプの排煙脱硝装置が開発され実用されています。ここでは、排ガスから生成される有害物質、窒素酸化物がもたらす問題や窒素酸化物に対する規制、国内で広く導入されている排煙脱硝装置の概要などをご紹介しています。
排ガスには、窒素酸化物という物質が含まれています。窒素酸化物とは、空気中にある窒素や燃焼中の窒素が酸素と結合して発生する物質で、主な発生源としては、自動車や工場、一般家庭などがあります。 窒素酸化物は、それ自体が有害物質となる他、光化学オキシダントの原因物質でもあります。光化学オキシダントが人の健康や植物の健康に影響を与えることは、比較的よく知られていることかもしれません。同じく空気中に発生する有害物質、硫黄酸化物と併称されることでも知られています。
なお、窒素酸化物の中に多く含まれる一酸化窒素は、空気中で酸素やオゾンと反応して二酸化窒素に変化します。そのため環境基準においては、この二酸化窒素の量を基準として設定されています。
昭和40年代以降、いわゆる光化学スモッグが公害問題として大きくクローズアップされました。光化学スモッグとは、上記の光化学オキシダントが大気中に過剰に発生している状態を言い、視覚的には遠くの景色に「もや」がかかったように見えることがあります。 光化学スモッグ発生による公害問題に対し、昭和48年、国は二酸化窒素に関する環境基準を制定。同年8月には、工場等から排出される二酸化窒素の総量に対して具体的な排出基準が設けられました。その後も継続的に二酸化窒素の排出基準の強化が行われています。 昭和56年には東京・大阪・神奈川エリアを対象に、新たに個別発生源に対する窒素酸化物の総量規制が制定され、また平成4年には自動車に対する窒素酸化物の規制が設けられています。
光化学スモッグの問題が顕在化したことを背景に、二酸化窒素の排出総量規制に加え、窒素酸化物の分解技術の開発が進みました。この技術から生まれた装置が排煙脱硝装置です。 光化学オキシダントの分解プロセスは「乾式法」と「湿式法」に大別されますが、これらのうち日本では主に「乾式法」が採用されています。とりわけ火力発電所等の大型設備においては、「乾式法」の一種である「アンモニア選択接触還元法」が主流として導入されています。 以下、「アンモニア選択接触還元法」の仕組みを簡単に見てみましょう。
アンモニア選択接触還元法による排煙脱硝装置とは、その名称からも分かる通り、アンモニアの働きを利用して二酸化窒素を分解する装置のこと。排ガス中にアンモニアを注入した上で、反応器の中にある触媒で二酸化窒素を選択的に反応させ、最終的には水と窒素に分解する装置です。触媒の主成分は二酸化チタンで、他にもバナジウムやタングステンなどが添加されています。
アンモニア選択接触還元法による排煙脱硝装置は、1970年代に日本で開発された技術です。第一号が導入されたのは昭和53年。火力発電所向けの大型設備でした。脱硝率が高く排水処理が不要などのメリットが多かったことから、やがて日本国内のみならず海外にも広く普及。2022年現在もなお、世界のいたるところで日本発の排煙脱硝装置が活躍しています。 二酸化窒素を原因とした公害問題は、日本だけに生じているものではありません。今後もますます世界中に排煙脱硝装置の普及が進むことが期待されています。